2020/08/25

納涼怪談きもだめし

残暑お見舞い申し上げます。
納涼で怖い話でもしようかと思う。
この話をしてくれた人、もしダメだったら連絡ください。
ってもう書いちゃうけどね。
怖いもの知らずで肝試しが趣味という、私には理解不能な趣味を持つ知人と、ある夏の夕食後に怖かった時の話を聞くことになった。
彼は廃屋から樹海まで様々な場所に肝試しに出かけて行き、本物の死体に遭遇してしまい警察にものすごく怒られたこともある、やんちゃな少年のような悪い成人男性である。
(以下便宜上、彼をTとしておく)
一番怖かったのは、本物の死体を見つけた時だけど…と断った後で、話始めたのだが…
その日も地元の悪友2人(以下KとS)と、有名な心霊スポットに行くことになった。
夜中に待ち合わせをしてバイクで向かった先は、神奈川で有名な、とある廃病院。
割と大きな病院で、廃墟になってから随分とたつので中は荒れていたし、医療ミスで亡くなった患者の霊や自ら命をたったモノの霊などが出るという心霊スポットとしても知られていたが、昼間は悪戯で忍び込む人間もいたらしく、心霊スポットとして相応の雰囲気はあるところだった。
建物付近にそれぞれバイクを停めて、懐中電灯を片手に、壊されてできた抜け穴から敷地内に入った。
Tを含めた3人の内のKだけが、入る前から少し怖がっていたらしいが、やめるそぶりもみせなかったし、せっかく来たので、そのまま3人で入ることにしたらしい。
外の光もわずかしか入ってこない、静かな建物は彼ら以外物音もなく真っ暗だった。
懐中電灯を持って照らす先だけが闇を消しさり、落書きされた壁、壊れた棚や割れた窓などピンポイントに浮かび上がらせるが、それ以外は深い闇の中だったし、懐中電灯の光のコントラストで余計にすぐ先の闇が真っ黒に見えるようで、その中に大きな何か潜んでいる気さえするのだった。
Tとしては肝試しは慣れていたし、Kのこともあったので、3人で話しながら奥へと進んでいった。彼らの話し声以外は、割れたガラスや砂利を踏む自らの足音だけが、壁伝いの小さな反響とともに真っ暗な闇に吸い込まれていった。
そして、口をつぐみ立ち止まると、その静けさに別の足音が聞こえてくるような錯覚さえした。
いくらか進んだところで、TとSが先頭になり、少し怖がっていたのでKはそのすぐ後ろを歩く感じの配置になっていた。
そして、しばらくすると、いつの間にかKが会話に入ってきていないことに気づいた。
「おい、K、大丈夫か?」
と立ち止まり振り向くと、Kは俯いてガタガタ震えていた。
先ほどまでの様子とあまりに違うので、冗談だと思って、
「何だよ、脅かすなよ。」
と笑いながらKに懐中電灯を向けると、
俯いた顔から覗く額にびっしりと汗をかいていた、尋常じゃないと気づいたTとSは、
「おい、本当に大丈夫か?」
とガタガタ震える肩を掴むと、Kがそろそろと汗だくの顔を上げた…

ここでTは、私に向かってこんなことを言った。
あのさ…よくホラー映画で白目部分が無くて目が真っ黒の黒目だけにする特殊メイクあるでしょ、
あれって、本当に起こるんだよね…
目が充血しすぎるとさ、本当に全部黒目に見えるんだよ…

懐中電灯の先でガタガタ震えながら脂汗を流すKの顔は血の気がなく蒼白で、目はまさに黒目だけの目をしていた。
助けて…
それを見た途端、背筋が凍り、TとSは反射的に悲鳴と共に走り出した。
とにかく、外に出ないと本当にやばい…と思った。
Kが後ろからついて来てるかどうか気にする余裕もなかった。
とにかく闇雲に外を目指した、外への扉を見つけ、慌てて抜けるとそこは病院の小さな裏庭だった。
ずっと後ろの方から、待ってーと、Kの悲痛そうな声が聞こえてきたが、足を止めることができず、裏庭を抜けようとした瞬間、
行く先を遮るように目の前に白いモノがスーッと現れた。
白い服を着た髪の長い女だった、ここまではっきりと見えたことはなかった
あまりの恐怖に、女をしっかり見ることもできず、とにかくここはやばい…と反射的に踵を返し、裏庭を抜け入ってきた場所へと、とにかく走った。
敷地を抜けて停めてあるバイクのところまでいく。
敷地を出たことでやっと少し冷静になり、周りを見るとSもちょうど走り出てバイクのところまでたどり着く。
Kは…?
Kのバイクはそのままである。
とりあえず、敷地から離れなければという恐怖と危機意識と、Kを置いてきてしまったことへの罪悪感と心配とで、すぐ逃げることができる位置で、尚且つ敷地の入り口が見わたせるところまでバイクに乗って少し距離を取ることにした。
しばらくすると、もつれるような足取りで、Kが出てくるのがわかった。
ホッとして、2人でKを迎えに行こうとした。
だが、遠目から見ても明らかに足取りがおかしかった。
よろよろと、そしてつんのめりそうになり立ち止まる。
やっとのことでKは自分のバイクまでたどり着き、そして先に出たTとSを探すわけでも無く、バイクに乗ろうとして、ヨロヨロとして倒れ、起き上がり、また乗ろうとして倒れを繰り返していた。
まるでバイクの乗り方を忘れた様に見え、その光景はとても異様に見えた。
TもSも、その不気味な光景に近づくこともできず、その場からKの名を大きな声で呼ぶが、Kは上の空でこちらを見ようともせず、初めてバイクに乗る時みたいに乗り方の練習をしている様だった。
そして、バイクにまともに乗れる様になると、そのまま2人に声もかけずに走り去ってしまった。
TもSも、異様な光景を目の当たりにしつつも受け入れられず、現実的な理由として、Kは自分たちに怒って帰ってしまったのではないかと思い込もうとした。
翌日、Tの元に電話がかかってきた。
相手はKの母親だった。
Kの母「昨日、何かあったの?」
T「…Kが、どうかしましたか?」
Kの母「昨日帰ってきてから、なんだかおかしい気がして。。ま、でももともと変わったところあるから、気のせいかもしれないけど」
と冗談めかしく言っていたが、明らかに声は狼狽している様子だった。
数日して、TはSを誘ってKの様子を見に行くことにした、
Kは目の下のクマ以外は、怒っている様子もなく別段いつもと変わらない様だったが、会話の途中で時々上の空になる時があった。
長居する気も起きなく、しばらくしてから、いとまを告げると、
家の外で、Kの母親に呼び止められた、そして、言いにくそうにしながら、
「あの日以来少し様子がおかしくて…」と、様子がおかしいということ以外は具体的な話は明らかに言い淀んでいたため、聞くのも怖くてそのまま流してしまった。
「それに、すごくお腹が空くみたいで、ものすごく食べる様になったの…」
夜中に物音で気づくと、真っ暗な台所で、何か食べている時があるとのことだった…

0 件のコメント: