2020/08/16

㉑参考資料の感想 (映画編)Auschwitz-Birkenau編14~その3


”㉑参考資料の感想 (映画編)Auschwitz-Birkenau編14~その1”
㉑参考資料の感想 (映画編)Auschwitz-Birkenau編14~その2の続き

『さよなら、アドルフ』(2012年/オーストラリア・ドイツ・イギリス)★

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敗戦直後、それまでの常識も生活も一変し、ナチス高官の両親が出頭し、混乱と無秩序の中、幼い妹弟や乳飲み子を連れて子供たちだけで900km離れた祖母の家を目指す話。説明や台詞は少ない分、カメラの撮り方、目線や仕草や表情が、心の揺れや激しさを表現していて、胸が苦しくなる。ドキュメンタリー編で書いた『ヒトラーチルドレン/Hitler's Children』のデジャブを覚える。総統の死とともに、6人の幼い我が子を全員道連れで心中したゲッペルス夫婦を思い出してしまった。原作はレイチェル・シーファーの小説『暗闇のなかで』の中の『Lore』。

『ヒトラーの忘れもの』(2015年/デンマーク・ドイツ)★★★

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終戦直後、5年間のナチスの占領から解放されたデンマークで、ナチスが戦時中に海岸線に埋めた無数の地雷の撤去を捕虜となったドイツ軍にあたらせることになった。2000人を超えるドイツ軍捕虜が150万を上回る地雷を撤去し、約半数近くが死亡または重傷を負った、その多くが地雷の扱いも知らない、あどけなさを残す少年兵だったという実話が元になっている。占領国共通のナチスへの怒りや憎しみはどこまでも深く、それを受け止めるには彼らは幼すぎる。とてもいい映画。そして、どこまでも続く白い砂浜の海岸線が悲しいまでに美しい。

『ハイドリヒを撃て!「ナチの野獣」暗殺作戦』(2016年/チェコ・イギリス・フランス)★

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ナチス占領下のチェコスロバキアのレジスタンスとロンドンにいる亡命政府によるナチス高官ラインハルト・ハイドリヒの暗殺計画(エンスラポイド作戦)の実話。
観る気が失せるくらいの酷いタイトルだが、中身は、かなり硬派な映画。

『ディファイアンス』(2008年/アメリカ)★

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ナチス侵攻によるユダヤ人虐殺から逃れるため、ポーランド・ソ連国境地帯の西ベラルーシ(当時ポーランド)の森の中に入り、兄弟や仲間と共にパルチザンを作り、また多くの非戦闘員の老人や女子供を助け匿い、最大1200人のユダヤ同胞を率いたビエルスキ兄弟の実話を元に映画化。ソ連赤軍のパルチザンが、思っていた通りのロシア的な感じで良かった。Defianceとは「果敢な抵抗」の意味。

『愛を読むひと』(2008年/アメリカ・ドイツ)★★

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『朗読者』が原作(原作の感想はコチラ)。邦題のタイトルが気に入らないが、原作を読んでから見たので、余計に良かった。ケイト・ウィンスレッドの肉感と表情の演技が、なんとも素晴らしい。また、原作は主人公の視点で書かれているが、映画の方は原作にはないハンナ側の描写もある。最後のニューヨークでのシーンは、映画の方が断然良かった。会話がかなり違っているので、受ける印象も全く変わってくる。原作に沿う感じで足された台詞の中に、
人は“収容所で何を学んだか“と尋ねてきます。
収容所はセラピー?
それとも、一種の大学?
…学ぶことは何もない。それだけはハッキリ言える。
(劇中の会話より一部抜粋)
これは、プリーモ・レーヴィを受けているのかとも思った。『これが人間か』のあとがき『若い読者に答える』の中から引用。
“若くしてラーフェンスブリュックの女性収容所に入れられた私の友人は、収容所は私にとって大学でした、と語っている。私も同じことを言えると思う。つまりあの出来事を生き抜き、後に考え、書くことで、私は人間と世界について多くのことを学んだのだ。
しかしこうした前向きの結果はわずかな人にしか訪れなかったことを、すぐに付け加えておこう。”
(『これが人間か』あとがきより)

『杉原千畝』(2015年/日本)★

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過酷な戦争映画を観すぎたせいで、欧米のものに比べて、時代背景や切迫感が全く伝わらない映像だったが、杉原千畝の人物紹介的な意味ではわかりやすかったのかなとも思う…。個人的には、須賀しのぶ著『また、桜の国で』(感想は後日)を読んでからだと、ちょっと良いと思う。
“人のお世話にならぬよう、人のお世話をするよう、そしてむくいを求めぬよう”
(劇中に出てくる、哈爾浜学院のモットーである自治三訣。『また、桜の国で』にも何度か出てくる言葉)

『コレクター 暴かれたナチスの真実』(2016年/オランダ)★

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オランダで実際にあった、富豪の美術コレクターのナチスの戦争犯罪(ポーランドでの虐殺)裁判の映画。戦後、共産圏に分かれてしまったが故の国際事件としての証拠や司法の難しさや、権力や財力による圧力、根深い反ユダヤ主義など、地味な映画だったが、面白かった。


『マイ・リトル・ガーデン 』(1997年/イギリス)★

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国際アンデルセン賞受賞作家ウリ・オルレブの半自伝的小説『壁のむこうの街』を映画化。ナチス占領下のポーランドで数ヵ月間、たったひとりでナチスの目を逃れ、収容所へ連行後の廃墟のゲットーの中で奇跡的に生き残った11歳のユダヤ人少年の話。同じ様な状況下ではあるが、『戦場のピアニスト』とは異なり、圧倒的な絶望感がそれほどなくて良かった…

『Band Of Brothers(Ep1~10) 』 (2001年/アメリカ)★★★(+★★★)

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これについては以前(落下傘部隊)にも書いたのだが、ポーランド関係ではないが、第二次世界大戦におけるアメリカ陸軍第101空挺師団第506歩兵連隊第2大隊E中隊の訓練から対ナチスドイツ戦勝利・終戦までを描いたドキュメンタリードラマのシリーズもの。
連合軍最大の作戦、ノルマンディー上陸作戦(D-DAY)が皮切りになるのだが、この作戦に関するドキュメンタリーをいくつか観ていると、全体の作戦計画や進行過程、様子がわかる。それにしても良く成功したな…と思うくらいに過酷で無謀な作戦であり、また果てしない犠牲のもとの勝利であった。
戦争モノに“良い作品”は、もしかしたら作るべきではないのかもしれない。戦争には何もなく、ただ傷と罪と痛みを残すだけなのだから。
それでも、大切なモノを守るためにすべてを掛けて戦争に参加した人たちがいて、それで守られた人たちも沢山いる。正義を信じて戦った人たちの存在を蔑ろにし、彼らの犠牲や想いまでを否定することなど絶対に出来ない。そう考えたときに、やはりこういう“良い”と言える作品も必要なんだと思う。
色んな意味で非常にアメリカ的作りではあるが、今のところ戦争映画の中では群を抜いて好きで、何度も見てしまう。

『Generation War(Ep1~3)』(2013年/ドイツ)★★★

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原題(ドイツ語)は“Unsere Mütter, unsere Väter” (“Our Mothers, our Fathers”)
バンド・オブ・ブラザーズが、アメリカ軍(連合軍)側の視点なのに比べ、こちらはドイツ側から見た第二次世界大戦になる。
幼なじみで仲良しの5人組。ドイツ国防軍少尉のヴィルヘルム、その弟の文学好きで新兵のヴィンター、家業のテーラーを継ぐユダヤ人青年ヴィクトル、その恋人でスターになる夢を持つカフェの給仕グレタ、その親友で新米看護師として野戦病院へ志願したチャーリー。そしてヴィルヘルムとチャーリーはお互いに想いあっている関係。
ドイツの若者の視点で描かれていて、ドイツ軍が苦戦しはじめる1941年、大敗するきっかけになる対ソ連への進軍と最も過酷な東部戦線が舞台となる。
小説『また、桜の国で』にも、ポーランドのレジスタンス(Armia Krajowa アルミア・クラヨーヴァ、略称: AK)の戦争孤児達が中心のイエジキ部隊が描かれていたが、AKは地下組織として沢山の分派がおり、その中には当然ユダヤ人を嫌っているポーランド人たちが沢山いた。その闇の部分も描いているし、悪名高きアインザッツグルッペ(移動虐殺部隊)や恐怖のウクライナ義勇兵部隊(補助警察、ディルレヴァンガー部隊など)、戦争末期の少年兵、赤軍の虐殺強姦など、これでもかというくらい過酷な戦争を描いてくれている。
本当にドイツ的な反戦を込めた戦争映画なので、辛いし落とされるが…これこそが戦争なんだよな…と思う。ホロコーストの描写が触りだけで、見ている側としてはこれ以上辛くなりたくないので、むしろよかった。
こちらもとても良い作品。
「数えているか?…殺した人数だ。」
「……いいや。」
「12人だ。…12人殺して……誰も救っていない……英雄のつもりが、今やクソ野郎だ。」
(劇中の会話より一部抜粋)

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