2018/01/05

日根さん。

“ 生きることだけが、大事である、ということ。たったこれだけのことが、わかっていない。本当は、分るとか、分らんという問題じゃない。生きるか、死ぬか、二つしか、ありやせぬ。おまけに、死ぬ方は、たゞなくなるだけで、何もないだけのことじゃないか。生きてみせ、やりぬいてみせ、戦いぬいてみなければならぬ。いつでも、死ねる。そんな、つまらんことをやるな。いつでも出来ることなんか、やるもんじゃないよ。”
(坂口安吾”不良少年とキリスト”より)


いま、日根さんという方が朗読して下さっているものをYouTubeで聴きながら仕事をしている

日根さんは、青空文庫(著作権が切れた本)の朗読をアップしてくれている方で、
声が良い上に、朗読が上手く、とても聴きやすい
読み方に少し癖があるのだが、それが味で、妙にクセになってしまった
本当に素晴らしくて、とても有難い。

日根さん、ありがとうございます!
(全然面識がない方だけど…感謝)

そこに、坂口安吾の”不良少年とキリスト”があったので聞いていたのだが
タイトルから小説と思いきや、太宰治の追悼文だった

これは、良い

フツカヨイ”のような文章からは、あまりに溢れ出る太宰に対する愛情がダクダクと伝わってきて、それ故の自死へのやるせなさから、もうひどく腹を立てていて、感情の筆圧が胸を締め付けてくる

何回も聞いてしまう

安吾もまた、これを書いた時、
太宰の死で、さらに酷くなったヒロポンやゼドリン中毒で酩酊状態だったのかもしれない
(※ヒロポン・ゼドリン=戦中戦後に普通に売られていた覚醒剤。当時の扱いは今のリポDやチオビタみたい感じだが、成分はメタンフェタミンやアンフェタミンなので完全な覚醒剤)


去年、80年前にかかれた吉野源三郎の”君たちはどう生きるのか”が話題になっていたらしい
本屋で平積みされているのを見てビックリした

この本は、5、6年前にたまたま読んでいて、ブログに感想を書いていた
(『コペル君と』←ご興味あれば、どうぞ)

この時は、一緒に読んでいた梨木さんの本が個人的に衝撃的すぎて、なんとなく印象が薄い…
だが、浦川くんの油揚げの場面だけは、家の造りまでやたら詳細に覚えていて、
あの場面は、なんの本だったかな…と時々考えていたので、タイトルを見たときに、思い出せて年末にスッキリした

名著ではあるが、なぜこのタイミングで話題になりベストセラーになるのか理由はわからないのだけど…(テレビとか著名人の影響かな?漫画も出たから?)

皮肉を言えば、本の内容が内容だけに、マスコミ(?)に扇動されてベストセラーになるところが、なんとも悲しい人の性である…

そして、読み終わった時点で、自分が扇動されていたことに気づいて、理由や目的を考えたくなれば、読者として正解なのかな?笑

ちょっと意地が悪かったか…

戦後に出た坂口安吾の”堕落論”も、短いが、この本と同じようなことを書いている

“生きよ堕ちよ、その正当な手順の外に、真に人間を救い得る便利な近道が有りうるだろうか。”(“堕落論”より)

“堕落論”にしても、”君たちはどう生きるか”にしても、普遍的金言ではあるが、戦争を生きたあの世相ありきのところもあると思う

いまの日本にいる”僕たち”には、
どう生きるか、という、人としての生き方の指南よりも、
生きてやろうじゃないか!、という根本的な意志の部分が必要な気もする

だから、

“歯がいてぇーんだよ、コンチクショウ!”
(意訳「なんで本当に死にやがったんだよ、オオバカヤロー!」)

と、友人の死を悼む皮肉屋の愛情溢れた言葉の方が余程胸にくると思うのだけど


冒頭の部分だけ読むと、坂口安吾は強い人だと思うかもしれないけれど、
優しいし弱かったと思う
というより、もう生き方がめちゃくちゃだった。
あの頃の世相や文士がそうだと言えばそれまでだが、
安吾はゼドリンやアドルム(強力な睡眠剤)の過剰摂取や酒と薬の飲み合わせの中毒で何度も生死をさまよっている
ただ彼の場合は、死のうとしてではなくて、生きようとしてそうなっている感じなのだけど…

安吾巷談の”麻薬 自殺 宗教”という、ひどいジャンキーエッセイを読むと、『ダメ!ゼッタイ!』の人たちが発狂するだろうな…
ま、すごいことにネット上で、今や誰もが読めるのだけど…そして、残念なことに(?)すごく面白い

以前、バンクーバーのホームレスにちなんでドラッグについて少し書いたが、
(『ここにいることを考えてみる(vol.13)』←ご興味あれば、どうぞ)
(http://fukuchiayako.blogspot.jp/2014/10/vol13.html?m=1)
シドビシャスに憧れてジャンキーになった人のように、私の場合は、中学生の時に安吾を読まなくて本当によかったと心から思う。

その頃、”トレインスポッティング”は観ていても、映画にハマるキッカケにはなったが、ドラッグに興味がいかなかったのは、簡単に言うと、たぶんファッション”と生き様”の違いだと思う

ま、坂口安吾の作品が教科書にのることは、ないだろうしな
そろそろロクな人間”の諦めもついたし、時間ができたら、まとめてエッセイ読もうかな


“然し、生きていると、疲れるね。かく言う私も、時に、無に帰そうと思う時が、あるですよ。戦いぬく、言うは易く、疲れるね。然し、度胸は、きめている。是が非でも、生きる時間を、生きぬくよ。そして、戦うよ。決して、負けぬ。負けぬとは、戦う、ということです。それ以外に、勝負など、ありやせぬ。戦っていれば、負けないのです。決して、勝てないのです。人間は、決して、勝ちません。たゞ、負けないのだ。
 勝とうなんて、思っちゃ、いけない。勝てる筈が、ないじゃないか。誰に、何者に、勝つつもりなんだ。”
(坂口安吾”不良少年とキリスト”より)

話は戻るが、
日根さんは、吉川英治の三国志も朗読してくださっている
三国志だけで総時間120時間くらい!
本当に素晴らしいですね
ちなみに、現在は私は、臣道の巻に入るところまで聞いたので、約30時間は聞き終わった感じかな
見開きが漢字の羅列であろうに、本当に大変だったと思う

私みたいな非頭脳労働の生産者にとっては、日根さんという存在を見つけた時のトレジャー感は、半端なかったです


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